＜一時の北インド脱出！！それって飼い牛！？＞
僕は次の目的地、カジュラホを目指していた。
カジュラホには世界遺産の寺院群があるが、ただの寺院群ではなかった。
寺院群の壁面に、男女の結合の彫刻が飾られているらしかった。
そんな、その彫刻の話を聞いたとき、インド人ってどこからそういった発想が生まれてくるのか不思議になった。
とにかく、エローラ同様、「人の作りしもの」の最高傑作には違いないので楽しみであった。
サトナーに早朝着くと、リキシャが殺到してきた。
「カジュラホに行くのか？？」
皆言う事は同じだった。
ここに来る外国人のほぼ１００％がカジュラホに向かうのであろう。
バス停には10分で着いたが時間があったので、近くの現地住民が御用達そうな朝食屋へ向かった。
観光地ではないので、擦れていない裏表のなさそうなインド人達が出迎えてくれた。
彼らはやはり英語が話せなかった。
何故「やはり」というと、インド人は英語が話せると思ってたが、実際は一部のお金持ちしか話せないからだ。
言葉は通じなかったが
「ドイ・サモサ！（サモサ2個）」
「エク・チャイ！（チャイ１杯）」
でOKだった。
言葉は通じないが、ジェスチャーで何とかオーダー。
しかし、擦れていない人々と接していると、ここのところのインド人との激闘で人が信じられなくなってきてたこのごろだったので、なんかホッとした。
カメラが腰にぶら下がっていたので、写真を撮ってあげると、住所を渡してきた。
「写真を俺に送って欲しい」
といっているかのようだった。
↑サトナーの朝飯屋。大量の野菜を仕込む。
さらに、店の店主は外に呼び出して
「俺の飼い牛と一緒に撮ってくれ」
とねだられた。
良く見たら首輪がついている！
↑’飼い’牛をつれてくる朝飯屋店主。少し嫌がっている。
この辺にうろついている（というか、この辺に限らずインド全域で）、どう見てもノラっぽい牛は誰かに飼われているみたいなことを何処かで聞いた気がする。
＜あれっ、カギが無いぞ？！壊してクレ～！！＞
サトナーからカジュラホへバスに4時間乗った。
サトナーはほぼ現地住民しか姿を見せないのに、このバスだけは様々な国のバックパッｶｰがいるインターナショナルなバスになっていた。
僕はでかいサックと小さいザックに分けて常に持っていた。
小さいザックには、トイレットペーパーやフイルムなど、比較的良く使う道具。
でかいザックには服や傘など頻繁に使わない道具を入れていた。
そして、大きいザックは南京錠をつけて封していたのだ。
しかし、バスの中で僕は気付いた。
「あれっ、でかいザックのカギがないぞ？！」
必死に探したが、何ゆえ他の乗客の邪魔になるのでかばんをひっくりかえして探す事が出来なかった。
やばい、と思った。
自分のかばんを自分で開けられなくなったのだ。
ここではどうしようもないので着くのを待って、カジュラホでなんとかしようと思った。
カジュラホのバスターミナルに着くと、今までにない数のホテル勧誘員に急襲された。
たちまち、下りてきた乗客達は彼等に捕まっていた。
だが、僕はあさっての方向に行って売店の人に
「誰かカギを壊してくれませんか～？？」
と泣きそうになりながら頼みに行った。
そこで、ひとりのホテル勧誘員が僕に話しかけてきた。
優しそうな人だった。
「どうしたんだ？ん、カギを無くした？！ウチに来たらそのカギも壊してあげるよ。シングル５０Rs（１２５円）でどうだ？僕のホテルは新しく出来たからまだ客が少ないからサービスだ！」
とちゃっかりホテルの宣伝もしてきた。
ホテルとしても５０Rsは安いし渡りに舟なので着いて行く事にした。
しかし、どうやって壊すんだろうと思ってたら、ノコギリを取り出していてゴリゴリ壊していった
ごーりごーりごーりパッキン！
「やった～！」
見事壊れた。
「サンキュー！」
僕は感謝してこのホテルに泊まることに決めた。
＜あなた客を連れてきたら割り引かれるって言われたんでしょ？＞
僕は、このできてまだ新しいとい「シャンティホテル」というホテルに泊まることにした。
シングルで５０Rs（１２５円）と言っていたのであまり内容は期待できたなった。
だが、ちがった。
真っ白シーツ・温水のシャワー・洋式トイレ完備とあきらかに５０Rs・インドにしては豪華な作りだった。
これは凄い得をしたと思った。
カジュラホは元々何もない村だったのだが、最近の観光客の増加でホテルが乱立して供給過剰らしかった。
かなり他のホテルでも価格破壊がおこっているらしかった。
従業員も親切だしなんにしろラッキーだった。
ロビーで宿泊の手続きをしていると、そこにホテルの前を疲れた顔をしたカップルが通りかかった。
「地球の歩き方」に載っていない良いホテルなので教えてあげようと思った。
僕「すいません。ホテル探しているんですか？」
「そうですけど。」
僕「このホテル、まだできたばかりのホテルらしいですけど、シングル５０Rsで綺麗でしたよ。」
「へえ・・。ああ、分かった、あなた客を連れてきたら割り引いてやるって言われたんでしょ。いるんですよねえ、そういう人。結構ですよ。」
僕「えっ・・・・・・そんなこと言われるのはちょっと心外ですよ。」
「そう言われることをしてるんだよ。」
僕「・・・・・・・・・・・・・・・そうですか。すいませんでした。」
「ふん」
正直かなりこれで傷ついた。
親切にやった事なので、蔑みで返された事に。
疑うのは結構。だが、はなから拒絶をしてたら本当の親切までも拒絶してしまうことになる。
地球の歩き方は、まずは疑ってかかることを煽っているがいい人か悪い人かを見極めるのは自分の目だ。
それは、ある程度話を聞かなければ分からない。
それに疑わしきは拒絶すれば、身の回りはきれいなものだけになる。そんなわけはない。
そもそも汚いものときれいな者を真っ二つに分けることなんてできない。
この旅人は「まずは疑え」という旅の定石をうのみにしすぎである。
が、こんなことで喧嘩をするのはあまりに馬鹿馬鹿しいので僕の方から引いた。
ホテルの従業員は
「まあ、気にするなよ」
とは言ってくれたが、こういう日本人に出会ってしまった今日という日を不運だったと思う事にした。
＜恐怖の超高速インド式観覧車！！＞
部屋に入って、トイレに行くと結構ひどい下痢をしていた。
このホテルには、１９歳の若い従業員がいたが、彼は僕の為に特注のお粥を作ってくれた。
が、彼のお粥は「味の素」と米と水ののごった煮であった。
「ごめん、おかゆの作り方は分からないんだ。」
と言ってきた。
「今日、カジュラホ観光から帰ってきたら教えてあげるよ」
と僕は言った。そしたら、彼は
「本当か？近くで村祭りをやっているんだ、案内してやろうかい？」と言ってきたので、行く事にした
。シャンティホテルのすぐ近くの広場（といっても、カジュラホは村なので郊外に出たら何処でも広場であるが・・）に連れて行ってくれた。
そこには、数え切れないくらいの露店が所狭しとひしめいていて、すごい活気だった。
しかし、僕にはどうしても行きたいところがあった。
ホテルからも見えたのだが、こんな小さな村にあろうはずもない観覧車が見えたのだ。
そこには、本当に観覧車があった。
↑インド式観覧車を下から見たもの。屋根もなく、簡単なつくり。
しかし、電気で動くタイプではなく、ガソリンか軽油を注入して動くエンジン式であった。
かなりやかましい音を立てていた。若い従業員と一緒に乗る事にした。
乗りこむとゆっくりと動き始めたが、どんどん加速して行った。
めちゃくちゃ速い！！
加速、減速が激しい上に、強烈な遠心力！！
これはジェットコースターだ！！
僕は周知のとおり車酔いにかなり弱い。
僕が最も1番苦手とする乗り物だ。
手足がしびれて気持ち悪くなってきた。
僕「ごめん、気持ち悪くなってきた。降ろして欲しい」
「なにっ、それは大変だ」
彼はエンジンを動かしていた人に
「おーい、あとどれくらい回るんだ！？」
と聞いた
「あと１０分だ！！！」
がーーーーん！！！
耐えきれない！
僕は身を乗り出して
「Stop it!!I want to get off!!」
と泣きそうになりながら言った。
しかし、なかなか減速せず、止まった頃には僕はクラゲになってのびていた。
ふらふらになりながら、近くの露店に連れられた。
若い従業員は
「大丈夫か？水を買ってきてやるよ」
僕「ああ・・、ごめん」
インドの観覧車恐るべし！
↑インド式観覧車から見たカジュラホの祭りと、遺跡群。だが、楽しんでいる余裕はない。
＜モスキート・レイン！！＞
ホテルに帰ってきて、少し酔いを覚ましてから外に散歩に出る事にした。
下痢と酔いで体がかなりふらふらになっていたので、カジュラホの世界遺産の遺跡は次の日に行く事にした。
とりあえず当てもなくふらふら歩いていると、これまた背が小さいインド人に声をかけられた。
彼は、
「俺の親戚の店が地球の歩き方に載ってるよ。来るか？」
と言ってきた。確かに載っていた。暇だったので行く事にした。
そこには、ショールや色々なものがあった。
彼らと話しているうちに仲良くなって、チャイをふるまってくれた。
しかし、この店ものすごい数の蚊がいた。そこで、
「蚊が多いなあ」
って言うと、なにやらスティックみたいなものに火をつけた。
煙が出てきた。
すると、目の前に恐ろしい光景が広がった。
蚊が雨のように降ってきた。
「ぎいやーーーーーー！！」
こんなに蚊がいたのかと怖くなった。
地面には瀕死の蚊が大量に落ちてもがいていた。
「どうだ凄いだろ。これでゆっくり話せる！」
インドの蚊取り線香もものすごいが、この狭い空間にこんだけ蚊がいたことがもっとすごい。
インドにはいったいどれだけの蚊がいるんだ？？
＜ターリー未だできず！！＞
このお土産やに連れてきたインド人は僕に
「今日うちにこいよ！うちでターリー（インドのカレー定食）をごちそうしてやるよ！」
と言ってきた。
限りなく怪しいが、特にすることはなかったので暇つぶしに行くことにした。
彼もまたお土産屋だった。しかし、町の中心部から大きく外れていた。
おそらく、あの人気店から客をひっぱってこないと客を得られないのであろう。
店に入るとさっきの店とは比べ物にならないほどのしょぼさだった。
そこで彼は
「チキンはいるか？」
と聞いてきた。
「・・ああ。」
少し、僕は疲れてきて元気が無くなっていた。
僕「俺は、昔日本人の恋人がいたんだ。」
「へえ」
「彼女と結婚をしようと思っていたんだ。」
僕「ほう、それで結婚したのか？」
「でも彼女の日本の両親が結婚に猛反対したんだ。それで、彼女はこういう手紙を送ってきたんだ。」
そこには、いかにもインドで気持ちが熱くなったけど、日本の現実に触れたら冷めてしまった、という感じの手紙があった。
「インド人の男はみんな日本人の女の事結婚したがってるよ」
って言って来た。
インド人の男には日本人の女性はだれでも美人に見えるらしいのだ。
それは肌の色に関係してるともいうが。
そしてインド人の女性は宗教的にクールで、日本人の女性はフレンドリーだからすごくひかれるらしいのだ。
そして、極め付けは「金持ちだ」ってことである。
実際日本人に限らず、経済的に豊かな国の女性と結婚したインド人は店やﾎﾃﾙを建てちゃってるのである。
そこで、彼は野望転換したらしかった。
「俺は日本に行って商売をして金儲けをしたい。そのための資金がひつようなんだ。パスポートはある。だから、少しでいいから協力してくれ（つまり、みやげを買ってくれ）」
と言ってきた。
（やはりそれが目的か・・・）と思った。
彼は、今までこの店に来た日本人の紹介文を取り出した。
「この人達はみんな俺に協力してくれた。だから君も協力して欲しい。あっ、この人は２０００Rs（５０００円）で土産を買ってくれたんだよ！」
いかにも金銭感覚が修正し切れてない日本人の写真を見せてくれた。
しかし、これ以上荷物を増やしたくなかったし、欲しいものもなかったし、彼の野望にも興味はなかったので断固いらないということにした。
いらないから帰ろうとすると
「せっかく、ターリーを今作ってるのだから食べて行ってくれよ。あと２０分でできるよ！」
と言ってひき止めた。
悪い気がしたので、ひき返すと、また
「この日本人は・・・」
と自分の日本人の友人の紹介を始めいかに日本人が協力的だったかをアピールした。
だが、いらないものはいらない。
そして今朝から痛かった腹が急激に悪化してしんどくなってきた。
「体調が悪いから帰っていいか？」
と聞くと
「まあ、、待てよ。あと、２０分でターリーができるよ。」
と言ってきた。
せっかく作ってるのに無駄になるという気持ちがありかえれなかった。
しかし、そんなしんどそうな僕をお構いなしに彼は話しつづける。
さらには彼のチンピラ風の友人がやって来て僕の耳にささやいた。
「あいつの為に君はお土産を買ってあげるべきだろう。」
もう、腹が立った。
お土産をいらない、体調が悪いから帰りたいと言っているのにいつまでたっても
「ターリーがあと２０分でできるよ」
と言ってお土産をかわすまで帰してくれそうになかったからだ。
5時に来たのに、結局9時までターリーはできなかった。
「僕はは体調が悪い。お土産もいらない。ターリーもいらない。もう帰るぞ！」
と怒ったふうに言うと、
「・・・・・分った。気をつけてな」
と言ってようやく開放された。
本当にターリーはできていなかったのか？
気がつけば、僕の体はふらふらになっていた。
＜恐怖の感染症ついに発症！！＞
宿に帰ると、ひどい下痢をしていた。
しかも、出しても全然すっきりしない下痢で何回もトイレにかけこむはめになった。
今までの下痢と全然違う。
と思ってたら、隣の部屋の日本人がノックしてはいってきた。
「こんにちは、交換できる本とかありませんか？」
旅をしていると、バックパッカー間で本を交換するということが結構さかんに行われていた。
僕は、読み終わった本を交換した。
池谷さんという中国を1年かけて周遊した超ベテランバックパッカーだった。
「体調悪そうですが、大丈夫ですか？」
僕「いやあひどい下痢です。」
「うーん、インドの下痢は結構長引きますよ。一度なったらなかなか治らないですからねえ。とにかく、水をたくさん飲んで安静にしてくださいね。」
他に、旅の知識を色々教えてくれた。そして
、「このカジュラホは駄目だ。ホテルの勧誘員が最初２０Rs（５０円）と言ってたくせに、行ってみると２０Rsの部屋は満員で１００Rs（２５０円）の部屋しかないと言われた。最初来た時はよさそうだと思って長居しようとおもったけどな。見た目はいいかおしていても汚い奴が多い。」
元々おだやかだった小さな村に、突如現れた世界遺産と外国人観光客。
そして、ばらまかれた大金と欲望。
そういったもののせいで、この村は少々ひずんでしまったのであろうか。
さっきのお土産屋も・・。
そう考えつつ、池谷さんと話しながら夜はふけていった。
