１時間くらい走ったところで、僕とGaviは警察署へ到着した。
ここでの僕の目的は盗難としての保険の申請に必須な“紛失証明書”を発行してもらうことであり、「犯人をなんとしても逮捕してもらう」ということではなかった。頭の中は「日本へ帰れるか・・・・」「保険がちゃんと降りるか・・・」しかなかった。
警察署の中に入ると、とても権力を行使している場所とは思えないほどのんびりした雰囲気がしていて、外で数人が座って話をしていた。
中に入ると、ふてぶてしい感じのインド人の警官がいた。
僕はまだ何も離せないくらい焦燥していて話をしようとしたが声がでなかったので、Gaviが代わりに状況を説明してくれた。すると、
警察署員「そういう話はBOSSがが来たらしてくれたらいいよ。」
Gavi「BOSSは何時に来るの？」
警察署員「署長は８時ごろに来るよ。」
署長はまだ来ないみたいだった。僕達が着いたのは大体６時半くらいだったので、１時間半も待たされる事になる。
Gaviはそんなに待ちたくなかったらしく、彼らに早く見てくれと抗議をしていたが、「Bossを待て」を繰り返すばかりだった。しかたないので、僕達は近くのお店で朝ごはんを食べる事になった。
もちろんこんな辺鄙なところに観光客は来ないのでローカルのお店。
チャイなどを頼んだが、小銭はお金は全部取られていた事を思い出した。どうしようと思ってると、ふとポケットがい事に気づいた。アジャイの残していった「おつり」の小銭だった。数えてみるとたった５０Ｒｓ（１２５円）程度だった。1,2,5Ｒｓだけだったので重かったはずだ。この「おつり」で朝ごはんを食べる事ができた。
複雑な気分だった。そして惨めな気分だった。
この朝ごはんを食べている間、Gaviとはあまり話をしなかった。
初対面という事もあったが、なによりも、僕がほとんど話さなかったからだ。この先どうしていいか本当にわからなく、話す気にならなかった。
１時間くらい経って警察署に行くと、上司らしき人物が椅子に座っていた。
中間管理職っぽい人物だ。
彼はなんと何もフォームも書いていない汚い白紙を机の上に出してきて僕に質問をしてきた。
しかし、バリバリになまったインド英語。全然聞き取れなかったのでGaviが聞き取ってそしてGaviが平易な英語に直して僕に伝える「英語を英語で通訳する」という異様な状況になっていた。
名前、住所、犯行時間、何故か父の名前、バイクのナンバーそして盗まれた物を一つ一つ聞いてきた。
はっきりいって汚い字でとても僕には読めなかった。
“こんなに適当で大丈夫なんか？？”
と思ってた。
そして、それらに関する値段も聞いてきた。紙の上にかかれる大量の盗難物。そして、金額。
計算された被害合計は盗まれたバイクも含め約２０万円だった。
僕はボーゼンとした。数字を見てとんでもない犯罪に遭ってしまった、と実感させられた。
こうなると保険だけが頼りだったのでなんとしても“紛失証明”をもらう必要があった。
その紛失物の聴取が終わると
中ボス「じゃあ、署長が来るまでまた待っていてくれ。紛失証明をタイピングするから。」
Gavi「えっ？今作ってくれるのじゃないの？」
中ボス「署長が来るまで駄目だ。待ちなさい。」
Gavi「もう２時間くらい待ったのよ！！まだ待たせる気！！！」
Gaviは怒っていたがどうにもならなかった。
Gaviはさっきの調書が物足りなかったのか、僕にアジャイのさらなる特徴を聴いてきた。警察は、盗まれたものを列挙しただけで肝心の犯人・アジャイの特徴を何も聴いてなかった。僕は、“紛失証明”をもらう事で頭がいっぱいだったのでその事に頭が回ってなかったがGaviはそこを冷静に見ていたのだ。
犯人のガタイ、人相、そして特徴・・。
思い出した！
僕「アジャイの胸にはなにやらの傷があったよ。銃弾の後にも見えるかも・・。」
Gavi「彼はどうやら過去にも犯罪を犯した事があるみたいね。彼があなたの部屋に残していった手紙をさっきよんだら刑務所からガールフレンドに出した手紙があって、それを読んだら過去に犯罪を犯した事が書いてあったよ。」
僕はその手紙を読んだ。英語の文章だったしこれを読む余裕が無かったのだが、Gaviは待ってる間に読んでたようだ。それはなんとアジャイが投獄されている時にアジャイのガールフレンドに出したラブレターだった。「だれよりも君を愛している」と書かれた手紙が２通あったが、この２通別の手紙だった。
その一つに
「I commited hard core crime（私はハードコアな犯罪を犯した）」
と書いていた。最後に刑務所の判があった。
意味は分かりにくいが、なにやら重大な犯罪を犯したのは間違いなかった。
殺人か、強盗か・・。
誰が言ったかは覚えてないが、
「数人は殺しているだろうね。」
と言っていたのを覚えている。
アジャイは犯罪者だったのだ。
そして、あの傷はおそらくなにやらの抗争でついたものだったのかもしれない。
それを見てぞっとした。
僕は犯罪を犯した人間と一緒の部屋に泊まっていたのだ。
僕「僕もし起きて抵抗していたら殺されていたかも・・・。あるいは、もし荷物をぎゅっと握り締めていたら腕を切り落とされていてもおかしくなかったんだね・・。」
僕は、そうなったときを想像してゾッとした。
衝撃的な事続きでもう精神的に緊張でまいっててしまいそうになった。
しかし、とにかく五体満足で今生きていられる事があり難かった。
Gaviは犯人の特徴などを詳細に書いて、中間管理職の警官に渡した。
Gavi「これでなんとか犯人を捕まえてね。」
しかし、犯人の特徴を聞こうともしないこの警察がとてもあの頭のキレるアジャイを捕まえられるとは思えなかった。
アジャイが何故ここまであからさまに証拠を残して行ったか。
指紋バリバリのコイン、服、手紙。これだけの証拠を警察が使ってアジャイを探す能力がないと判断したんだと思う。警察はアジャイに舐められていた。
しかし、アジャイはリスクを犯してまで僕のデジカメを持って行った。ベルトをはずすさないと持っていけないようにしていた。盗ろうとすると僕が起きる可能性は大だった。しかし、アジャイの写真が写っていた。それだけはまずいと思ったんだろう。それを盗るために僕がぐっすり眠るようにお酒を飲ませたのだろう。
どこまでもキレる奴だ。
アジャイは“プロの”犯罪者だった。
２時間経ったころ、やっと署長がやってきて、面会をした。
今までの下っ端の警官に比べると幾分落ち着いた感じのある人だった。
色々僕の状況を聞いた後、
署長「よく知らないインド人と一緒に泊まったんだろ。それは君が悪いよ。次から初めて会った人は誰であっても信用しちゃ駄目だよ。」
僕「・・・・・はい。」
言い返す言葉も無かった。
署長「隣の部屋で“紛失証明（missing report）”をタイピングしてもらうからもう少し待ってくれ。
やっと紛失証明ができるみたいだ。」
１０分後、紛失証明ができあがった。戦前の日本で使ってたようなタイピングで打たれた弱弱しい紙だった。
しかしこれが後に８００００円の保険金を生み出したのだった。
↑警察による紛失証明書。盗難又は紛失に遭った場合、すぐにこれを手に入れないといけない。
しかし最後に署長にお礼を言って別れようとしたとき、気になる事をいった。
署長「君はホテルに帰ったら、すぐにこの町から出なさい。バイクの事でオーナーと大きなトラブルになるよ。Good Luck!」
レンタルで盗まれたバイクのことだ。借りたバイクは僕の名前で借りていた。
状況が状況。逃げたほうが良いものか・・・、いやしかし責任は僕にあるし・・。と考えていた。
“今は航空券すら盗まれた状況。格安航空券なので再発行してくれるかも分からない。
地球の歩き方には格安航空券は無くしても再発行は難しいと書いてあった気がする。
もし、バイクの保障をさせられたら帰れないぞ！”
と僕はとっさに思った。
逃げないと帰れないかも・・。
しかし、Gaviとバイクに乗ってホテルに戻ろうとしているとき、
「おいちょっと待て」
と声をかけられた。
後から来て事情聴取を聞いていたインド人だった。
盗まれたバイクのオーナーは既に警察に来ていて一緒に事情聴取を聞いていた！
ホテルの従業員と思っていた人物はオーナーだった。
バイクが盗まれたことを知り、僕が逃げられないようにすぐさま追いかけてきていたのだ。
どうするかろくに考える暇もなく、オーナーに捕まった。
今までの旅での最大のピンチがおとずれようとしていた。
＜バイクオーナーの賠償請求！＞
