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インド一人旅・全荷物盗難事件記 vol.1
油断した流離人（２００４年 ３/２７〜３/２９）
・２００４年３月２７日（関空→ムンバイ）
今回の旅行はインドの最南端、カニャークマリに行く事を目的にエアインディアの飛行機に午前１１時の便に乗った。僕のこの時の気持ちは、
＜日系人と部屋をシェア。油断の前兆。＞
“もう慣れたもんだ”
という、ある意味慢心に近いものがあった。というのも、前回インドに行くときは前日は一睡も出来ないほど緊張していた。怖くてしかなかったのだ。しかし、昨年４６日間一人旅を達成しているので今回は、全く緊張感というものがなく、友人にも、
「今回は短いしもう慣れてるし楽やろうなあ」
と言っていた。この油断こそが実に今までの旅の中でもっとも過酷な状況を作ったのだ。
香港・デリーと経由してエアインディアの飛行機は、夜中１２頃ムンバイに到着した。ムンバイに到着して手際良く両替をしている所に一人の老人に声をかけられた。
「日本人の方ですか？ホテルを予約していますか？」
彼はヤマグチさんといったが、日本人ではなかった。日系のブラジル人の人で、今回は一人でインドに修行に来たみたいだった。僕達は空港のホテル予約センターで一人４５０Ｒｓ（１１５０円）とちょっと高かったが、送迎付きのホテルに一緒に行く事にした。ヤマグチさんはインドにはもう何回も来ていたらしかった。しかし彼は、
「私が初めて来たとき警官と知り合いになり、一緒に飯を食べに行ったんです。その後、私は急に眠くなりぱったりと倒れた。そして起きると荷物が全て無くなっていました。」
「最初はショックだったが、後から思えば荷物を全て盗られてかえって良かったと思いました。」
典型的な睡眠薬強盗にかつてインドで遭われたみたいだった。
“お気の毒だがインドではよくある事だ”
と他人事ではあった。しかし、２つ目にヤマグチさんが言った事は印象に残っていた。どういう意味かははっきりとは聞いてなかったが、おそらく荷物を無くして何か今までとは違う感覚を味わったということであろう。しかし、彼がどういう気持ちになったのかはこのときは思いを馳せることは無かった。ただ、この話が後々自分の旅を大きく動かすとはこのときは夢にも思わなかった。
僕とヤマグチさんは同じ部屋にシェアして泊まった。ホットシャワーが付いていて、冷房も付いてた。去年３５０Ｒｓで窓の無い狭い暑苦しい部屋だった事を考えると、なかなかよいホテルだった。
僕は以前にも全く見ず知らずの人と部屋をシェアした事は何回かあった。ホテルは基本的にシングルを借りるよりツインで借りた方が安くなる。だから、宿代を浮かすためにしばしば知り合った旅人と部屋をシェアする事がある。イラクで誘拐された二人組の日本人も全くこの手法を用いて宿代を浮かしていたみたいだ。このヤマグチさんと一緒に泊まって全く何も問題は発生しなかった。今までも大丈夫だった。そこに、
偶然会った旅人は一緒に旅しても基本的に大丈夫だ
という認識が僕の中に発生してしまっていたのだ。
この認識が後で僕にとんでもない災いをもたらしたのだ。
・２００４年３月２８日（ムンバイ→（寝台バス））
１０時に起きた僕とヤマグチさんは、僕達は市内へ向かう事となった。このホテルは市外の空港に近いホテルだった事が朝になって分かったからだ。ヤマグチさんは市内の便利なロケーションのホテルへ泊まる事、僕はゴアへの列車のチケットを取ることが目的だった。予定が１５日しかなかったので、この日にゴアに向かっておかないと最終目的地のインドの最南端のカニャークマリに行くのが日程的に苦しくなるところだった。
＜再びムンバイ市内へ。親切なインド人の案内。＞
市内に向かうときは前回ムンバイで使わなかった近郊列車を用いた。ムンバイはインドで一番大きな大都市であり、近郊の住宅の数も充実していてこういった通勤列車も走っているのだ。チケットは確か一人８Ｒｓ（２０円）だったと思う。今このときの日記が手元にないので正確な値が分からないのだ。しかし、切符を見に来る気配はなし。ファーストクラスに乗り込んだが誰もチェックする気配もなし。この近郊列車、はっきり言って皆無賃乗車だ。どうやって運営してるのかが、かなり謎である。ちなみに、誰も乗って居なかろうが隙を見せないように荷物からは目を離さないようにしていたのはよく覚えている。実はそれくらい僕は普段は必要以上に警戒しすぎるくらいの旅人だったのだ。
駅についた僕は、ヤマグチさんに待ってもらって、駅でゴア行きの列車の切符を買おうと昨年５００人待たされた切符売り場へ向かおうとした。そこへ、一人のインド人に声をかけられた。彼は、もちろん客引きだった。彼は
「ゴア行きの寝台バスの切符を欲しくないか？」
と言ってきた。僕はこの話にとびついた。というのも、列車の、特に２等寝台列車の切符は慢性的に超満員で当日ではなかなか取れない事を僕は去年の経験から知っていた。また、地球の歩き方にバスの中にベッドが入っている「夜行寝台バス」のことが書いており、興味があったので乗ってみたかった。売値は初期値は６５０Ｒｓ（１６２５円）。夜行寝台が２００Ｒｓ前後という事を考えると３倍くらい高かった。しかし、興味があったので、交渉して学割？で５５０Ｒｓ（１３７５円）で帰ることとなった。まだ高いが、ついた日に動ける事を考えると高くはなかった。ここで、列車からバスへ変えたことが僕の運命を変えたのかもしれない。
市内でホテルを見つけたヤマグチさんと別れた僕は、そのタクシーでエアインディアのオフィスに向かった。リコンファームをするためだ。来て早々リコンファーム（予約確認）をするのはかなり異例の事だが、これからオフィスの無さそうなハンピなどの田舎に向かう事とハードな日程なのでリコンファームできない可能性がある。特に僕の乗ってきたエアインディアは、リコンファームしないと勝手に帰りの便がキャンセルされる事がよくあるらしい。であるので、用心のためにここでやってしまおうと思ったのだ。リコンファームは何事もなく完了した。このことでも分かるように、自分で言うのもなんだが、僕は海外旅行はかなり慣れている「中級者」であった。
巧みに次の移動の準備などを済ませた僕は暇になった。であるので、駅近くのマクドナルドで去年も食した「マハラジャマック」を食べようと再び駅に向かった。その途中で、駅までの道を聞いたインド人が案内をしてくれた。腹が減ったというと、彼が行きつけの食堂へ案内してくれた。インド人しかいない大衆食堂だ。そこで、僕はカレーピラフとヨーグルトを食べた。かなり懐かしい味だ。そして、僕はこれからのためにチェーンや列車の時刻表がほしいと言うと僕の代わりに買ってきてくれた。
「君が行くと外国人だからふっかけれるよ。」
と言っていた。親切すぎるな、なんかあるな、と思った。だが、最後まで彼は特に僕に見返りを求めなかった。この日は日曜日で休日。彼は暇していたところに僕が来たので、単純に外国人と話がしただけであった。こういう人もインド人にはたくさんいる。
「僕は学校の警備員をしているんだ。月給？３０００Ｒｓ（７５００円）くらいかな？」
僕「それで足りるの？」
「足りないね。子供も２人いるしな。」
僕「将来の夢は？」
「とにかく、子供をいい学校に入れる事だよ。」
僕「そうかあ。夢が叶う事を願ってるよ！」
僕と彼は微笑んだ。
しかし、そんな順調かつ和やかな時が流れている時、カニャークマリへの旅の破綻への足音が一歩一歩近づいていた。
＜犯罪者・アジャイとの出会い＞
彼は僕をバス乗り場まで案内してくれた後、一緒にデジカメで写真を撮って別れた。しかし、悲しいかな、日記もデジカメのデータは無く、このインド人との想い出は僕の胸の中のみに残る事となった。
犯罪は人のいろんな物を奪う
過去だけでなく未来も・・。財産だけでなく思い出も・・・。
そんな被害者の心をを想像もできない人物が僕に近づこうとしていた。
僕はバスの乗り場に着いたが、まだ１時間くらい時間があったので、お茶でも飲んで時間をつぶそうとした。近くのチャイを売ってそうな店を見つけ中を覗いていると一人のインド人が手を振っていた。
中に入っていくと彼は
「日本人、一緒にチャイを飲もう！」
と言った。僕はチャイを頼んだ。一応睡眠薬が入っていないか分からなかったので、ちびっと飲んで、様子を見た。僕は、知らないインド人にチャイを誘われた時は、睡眠薬が入っていないかをチェックしてから飲んでいた。時には、相手のチャイを隙を見てすりかえるという事もやった事もあった。だが、なんともなかった。彼の名はアジャイと言った。僕はこれからインド随一のリゾート地・ゴアに向かう胸を伝えると、
アジャイ「偶然だな、俺も今からそこのバスに乗ってゴアに向かうところだったんだよ。今は夏だろ。俺は服のビジネスをしていて夏になると服がぱたっと売れなくなるんだ。だから、俺は毎年ゴアにこの時期は休暇を取って遊びにいくんだよ。」
と言った。そして、僕に夜行バスのチケットを見せた。ここが僕が彼を信用してしまった第一歩となった。
僕はこのとき次の事を考えていた。
１．これからは確かに酷暑記でおそらくアジャイがサリーなどを扱っている人なら売れなくなるだろうな。
２．ムンバイはインド経済の中心地。ビジネスで上手く行っているのならリゾート地に行く余裕があっても不思議ではない。
３．あっちから近づいてきたのではなく、さらにゴアに行くチケットを僕が言う前から持っていたのだから、彼は本当にただの旅人だと考えられる。
特に、３が僕にとってアジャイを信用してしまう要因になってしまったのだ。
上記したが、
“偶然会った旅人は一緒に旅しても大丈夫だ。”
という僕の中での経験則があった。
この経験則が無残にも破綻したのだ。イラクの人質事件でもそうだが、今まで大丈夫だったからこれからも大丈夫だと判断する事はあまりにも危険であるという事をこの経験は物語っている。
彼は、店を出るときにチャイをおごってくれた。
僕は、別にいいよ、と言うと。
アジャイ「Good people respect good people（いい奴はいい奴を尊敬するんだよ。）だから俺は、君にチャイをおごるんだ。」
と言った。完全にアジャイをただの旅人と思い込んでいた僕は、この言葉は疑うどころかなかなか「面白い奴だ」と思ってしまっていた。
さらに彼は僕のゴアへのバスチケットを見て、
アジャイ「君はこれを５５０Ｒｓで買ったのか？これだったら３５０Ｒｓで買えるよ。君は騙されたんだ。もう一度旅行会社に言ってみろよ。」
僕「でも、時間が無いからもういいよ。別にノープロブレムだよ。」
アジャイ「ノープロブレムではないよ！お金が大切なのは君も知ってるだろ？君は抗議するべきだ。俺があそこに居る係員に抗議してやるよ。」
と言って、抗議してくれたが、
アジャイ「やはり旅行会社に言わないと駄目みたいだ。でも、次からは気をつけろよ！」
もう僕の中で完全にいい奴になっていた。
しかし、上記の彼の話し方は全て僕を信用させるための巧みな話術である事を気づかされるのはそれからわずか２日後のことだった。
バスの種類は違った。僕はベッドつきの寝台バスで、アジャイは座席の夜行バスだ。ゴアのマプサというところで再び落ち合う事を約束して僕達は別れた。彼は
「取っておきのビーチを教えてやる。」
と言った。
地球の歩き方には多くのビーチの事が書いている。しかし、あまりに多すぎてどこのビーチがいいのか分からなかった。なのでゴア経験者のアジャイの誘いに乗ることにした。
夜行バスはベッドがバスの中に入っている。進行方向に眠る事が出来るので見える景色が抜群に良かった。
また、風通しもいいので気持ちよかった。
その気持ち良い風に吹かれながらＣＤを聞いていた。買ったばかりのＣＤプレイヤーだった。自分の好きな旅の曲をＣＤ-Ｒに焼いて持ってきていたのだ。
しかしその新品のＣＤプレーヤーでＣＤを聞くのがこの時が最後になるとは誰が想像するだろうか。
このＣＤプレーヤーとはたった２日の付き合いで永久の別れとなってしまった。
・２００４年３月２８日（(寝台バス）→ゴア（マプサ→アランボールビーチ））
＜アジャイ・自分の知ってるホテルに連れて行く＞
寝台バスは予定通りビーチへの基点マプサに早朝の７時に到着した。アジャイは違うバスに乗ってくると言っていたが、まだ到着していなかった。アジャイを待ってボーっと突っ立っていると、あちこちからバイクタクシーの運転手が集まってきた。もちろん彼らは客引きだ。ゴアでは州の法律でバイクタクシーが認められているらしい。しかし僕はアジャイと一緒に行動するつもりだったので、
僕「僕は友人を待っているから、バイクタクシーはいらないよ！」
「君の友人は来ないよ。ビーチを教えてやるからバイクに乗れよ。ところで友人の名前はなんて言うんだ？ドコの国からきたんだ？」
「アジャイ。彼もインド人だ。」
「そうかインド人か。分かった。しかし、君の大きな荷物に充分注意しろよ。」
捨て台詞のバイクタクシードライバーの言葉は現実になってしまったのだが。
しかし、後から考えると彼らはこのアジャイの事を知っていたのか？と思えるのだが、今となっては分からない。
その後１０分くらい経つとアジャイがインド人に引き連れられてやってきた。
そのインド人の人たちとアジャイが一緒に並んでるとアジャイの体が一回り大きく、強そうな感じがしたのは鮮明に覚えている。
僕とアジャイはローカルバスに乗り込んで彼が勧めるアランボールビーチというところに向かった。
アランボールビーチは地球の歩き方には非常に美しいビーチでと書いていた。バスはアランボールの町の中に着いたが、ビーチからは程遠く今度はバイクタクシーに乗り換えてビーチに向かった。そのひとつひとつをアジャイが手際よくやっていた。アランボールビーチに着くと、マハーバリプラムを思い出すような南国のお土産屋が並んでいてその先には美しいビーチが広がっていた。日差しが暑かったが僕はこの美しい海に感動していた。
そのビーチで昼食をとっているときアジャイは
アジャイ「俺のオススメのホテルがあるのだが、そこはここから少々遠いが安い。ゴアはどのホテルに行っても高いがここはツインで泊まると一人１００Ｒｓ（２５０円）と比較的安くなる。どうだ行ってみるか？」
と言ってきた。しかしここから２キロほど歩かないといけなく、最初僕はしぶっていた。
なので、その食堂にいたウェイターにこの辺のホテルの値段を聞いてみると「二人で５００Ｒｓくらいだ」と言われた。
いくらなんでも一人２５０Ｒｓ（６３０円）ではインドでは高かった。なのでアジャイの薦めるホテルまで歩いていくことにした。
そのホテルまでは灼熱の砂浜を歩いて約３０分以上かかった。
さらに重い荷物を持ちながらなので相当つらかった。
その歩いている途中、アジャイは自分の身の上について語っていた。
「俺は貧しいデリーの北の村からやってきた。」
「昔、ボクシングの選手をしていて有名な選手とも戦ったことがある。だから俺はこんなに筋肉がついているんだ。」
これらは、彼の作り話であったのは言うまでも無い。
そして、
アジャイ「これから俺が行こうとしているホテルは去年も俺は行ったんだ。ホテルの上に旗が立っている。そして、俺はこのホテルを経営している兄弟と知り合いだ。彼らは二人とも背が高くてそっくりだ。お前だったら見分けがつかないと思うぞ。去年、来たときも日本人と一緒だった。名前は確か・・○○だった（忘れた）。彼も俺と一緒の部屋に泊まって一緒に過ごした。彼は日本の東京に住んでいるカメラマンで一週間ずっと写真を撮っていたよ。」
彼が具体的な身の上話もし始めていた。
砂浜の一角にポツンと一つのホテルが建っていた。
ホテルと言っても、このホテルは部屋が一つ一つコテージのように分かれていて独立した形になっている。
ホテルに着くと、アジャイがさっき言っていたように本当に旗が立っていて、背の高い従業員が経営していた。
その従業員はアジャイと親しそうに話していたので初対面でなかったのは確かだ。そして着くや否や、ホテルのレストランに座り、アジャイは
アジャイ「モトキ！ビールを飲まないか？暑くてたまらん。！」
とビールを勧めてきた。僕はあまり飲めない。しかし、あまりに勧めるので小瓶のビールを一杯のむことにした。
この頃になるとかなり警戒心が緩んでいた。彼の目的は僕を酔わせて隙を作らせることだったにも関わらず。
飲み終わるとアジャイはホテルのスタッフに
アジャイ「俺たちはツインルームに泊まりたいんだ。部屋を見せてくれ。」
といった。
僕はそれは嫌だったので、
僕「ごめん、アジャイ。僕はツインルームよりもシングルルームに泊まりたいんだ。」
アジャイ「何故だ、モトキ！シングルに泊まると高くなるぞ？俺はインド人なのであまりお金は無いので安く泊まりたいんだ。去年も俺はここに来た。そのときも俺はツインルームに日本人と泊まったのだ。別にいいだろ？」
僕「うーん・・・・」
実際、このホテルに来てみてホテルの上には旗が立っていて、背の高い兄弟もいた。
彼は嘘はついておらず、話の通り去年もここに来て日本人とシェアしたんだなあと思わされた。
まあ、インド人と一緒に旅をしてシェアをするのも面白い経験かなと思った。
かつて、インドで会った人で日本人でインド人とシチュエーションは違えど一緒の部屋に泊まっていい経験が出来たといっていた人もいた。
しかし、この判断が後に重大な事件を起こすにいたってしまった。
僕達は同じ部屋に泊まる事となり、シャワーを浴びた。僕は腰巻を含めた貴重品をはずしてシャワーを浴びなければいけなかったが、目の届く位置に置いて盗られないようにはしていた。そして、アジャイがシャワーに。
僕達は夜行バスに乗って疲れていたので昼寝をすることにした。僕は貴重品の入ったサブザックを隣に置いて眠りについた。
＜アジャイ・僕がバイクを借りる事を勧める＞
目が覚めたらアジャイはまだ眠っていた。
僕は外出する準備をした。
このときは荷物はまだなくなっていなかった。
アジャイが起きると、今後について話した。
アジャイ「俺は○○○○（名前忘れた）という料理が得意だ。これはインド料理なのだが、特に俺がつくるものは絶品だ。お前のためにここで作ってやろう。明日はゴアの州都のパナジに観光に行こう。買い物に行くのも観光に行くのもここではバイクが便利だぜ。」
僕「僕はバイクに乗れないんだ。だからいいよ。」
アジャイ「そうなのか？だったら俺が教えてやるからバイクを借りておけよ。」
しきりに、僕がバイクを借りる事を勧めてきた。とにかく、何かにつけて強引な勧めをする奴だった。
確かにここは、交通機関が発展しているとはいえず、ホテルから町に行くのはバイク以外はちょっとしんどそうだった。
それに、ここでバイクの乗り方を教えてもらうのも面白いかな、と思ってしまった。
結局ちょっとしぶったが借りるとこにした。
「面白そうかな」で危ない橋を渡るのもいいけど、本当に何かあったとき取り返しがつかないので、駄目だと思ったら「断る」「あきらめる」判断をできるようにすることが、海外旅行では非常に重要である。
僕が泊まったホテルではレンタルをやっていなかったので、隣のホテルでバイクを借りる事にした。
隣のホテルではバイクの在庫があり、すんなり借りる事ができた。
アジャイがレンタル話を進めていった。そして、
アジャイ「モトキ！どうも借りるのにはパスポートを預けないといけないようだ。そこで、君のパスポートをここに預けてくれないか？」
僕「パスポートを預ける事は絶対にできない」
アジャイ「どうしてもか？」
僕「うーん。コピーならあるけどこれならいいよ。」
これで交渉が成立した。
僕が保証人になってしまっていた。インドで自転車やバイクをレンタルをする際、お金やパスポートのデポジットという事は結構要求される。何か起こったとき、それを用いて賠償させるためだ。ここでは、僕は「どうせ何起きないのだから」と気軽な気持ちでパスポートのコピーを預けてしまった。これが後々被害をぐっと大きくしてしまう事になった。
「何か起きたときのための」保証人であるのだから、本当に信頼できる場合以外は絶対に気軽に保証人になってはいけない。どんな場合にでも。さもないと「何か起きたとき」に甚大な被害をこうむる事になる。
とりあえず、この日はバイクを２台借りて、そのうちの１台を使って僕のバイクのレッスンをすることになった。
人気の居ない安全な道に移動して、僕はエンジンのかけ方から、ギアの変え方まで丁寧に教えてもらった。１時間くらい練習すると、ある程度乗れるようになった。
しかし、まだ公道を走る自身は無かったので、結局アジャイが運転して僕が後ろに乗る形で町に移動することとなった。
僕のバイクの鍵をアジャイが管理する形となってしまった。アジャイは、犯罪実行に向けて実は着々と準備を進めていっていたのだ。アジャイを信用していた僕はまるっきり「そういう可能性」には無頓着であった。
＜さらば、親愛なるパートナー達＞
バイクで八百屋に向かったが、夕方だったのでいい野菜がなく、結局外で食べる事となった。
夕食を食べている途中、
僕「僕はゴアに３日ほどいたあと、ハンピを目指す。その後インドの最南端を目指して旅をするつもりだ。」
アジャイ「そうかあ。俺もハンピへの旅についていくぞ。なーに旅の予定を変更したらいいし。」
突然、アジャイはハンピへ着いてくると言い出した。僕は流石にそこには一人で向かいたかった。
“アジャイといると、面白い事も多かったが、多少強引なところがあって疲れるから３日くらいで分かれるのが丁度良い”
と思っていたからだ。なので僕は
僕「ごめん。一人で行きたいから、ここで別れよう。」
アジャイ「そうか・・。」
何故アジャイがそんな事をいったのか。後から考えると、アジャイが僕の荷物を盗難するに、アジャイが思っていたほど隙が少なかったんだろうと思う。僕は、どんなときも貴重品が入ったバックを手放さなかった。酒を飲んでも酔いつぶれる前に飲むのを止めていた。よって、さらに一緒に行動して隙を探そうと思ったのかもしれない。
その帰り、僕はインターネットで自分のＨＰに書き込み、旅の報告をした。
「今、僕はある人と部屋をシェアしてます。
彼はインド人です。
ゴアのバスに乗るときに知り合いました。
彼は服を取り扱うビジネスをしていて、現在は暑くなってきて売れなくなったので休暇をとっているらしいです。
彼は毎年ゴアに休暇できているので、ゴアに詳しいのでいっしょに行動することにしました。
アランボール中心部のホテルは高いので、彼の知っているゲストハウスに行くことにしました。そのため、なーーーーんにもない砂浜を照り付ける太陽のもと１時間くらい歩いてめちゃしんどかったです。ホテルに着くと、彼と部屋をシェアすることになりました。その方が安いからで彼はそれを望んでいたからです。最初、かなり抵抗がありました。というのも、インド人と部屋をシェアしたことはないからです。しかし、
「グッドピープル リスぺクト グッドピープル」
としばしば言っており、まあいっしょに泊まることにしました。結果は、いまのところまったく問題無かったです。
どうも、去年も日本人と部屋をシェアしたらしく、日本人から見たら、かなり図々しいですが、でもいい奴です。
しきりに、だましてくるインド人の文句を言っており、
「ムンバイの７５パーセントがチート（悪い奴だ）」
「だましているといつか自分がだまされるぞ」
と以前、バラナシで会ったアキラと同じようなことを言ってます。良心的なインドの人々がこれほど嫌悪を抱いているとは思ってなかったです。
もちろん、油断はできませんがあと２日いっしょにいようと思います。」
このときの僕のアジャイの印象は全然悪くなかったのが後から見てみると分かる。
完全に信用させられていたのだった。
ホテルに帰ると、１１時ごろだったので、寝る事にした。
アジャイが服を着替えているとき、左胸に妙な傷を発見した。
左胸にナイフか銃弾の傷跡があったのだ。僕は流石に不審に思い
僕「アジャイ、この傷は何だ？」
アジャイ「・・・・俺は昔デリーの北の村に住んでいるっていっただろ。その時、悪い奴らが俺の村に襲ってきたんだ。そのとき、身を挺して村を守ったときこの傷ができたんだよ。」
僕「ふーん・・・」
かなりうそ臭い話だったが、このときはどうでもよかったので気にしない事にした。
そしてアジャイは、
アジャイ「俺は、昔村にいたときのクセから、地面に寝ないと良く眠れないのだ。だから、俺は一人で床に寝る。だから、モトキ、お前はベッドの上で一人で寝てもいいぞ。」
僕は内心うれしかった。２人でなるには少々窮屈だったからだ。なので快諾した。
そして
アジャイ「あとなあ、俺は電気をつけて明るくしないと眠れないのだ。だから、電気をつけたまま眠っていていいか？」
どっちでも良かったので電気をつけて眠る事を了解した。
しかし、僕はこのとき彼がまさかその後、事を起こしやすいようにそういう風な状況を作り出したことに全く気づいていなかった。これで、彼は僕が起きないように荷物を盗む事が可能になったのだ。
アジャイは僕より先に眠ったようだった。
僕は日記を書いた。今はその日記はない。
僕がこの旅で持ち歩いていた大きなザック、そして小さなザックは中国を旅したときからインド、東南アジアと渡り歩いてきたときずっと一緒だった。色んなところが壊れたり破れていたりしたが、長年一緒にやってきたパートナーだった。その思い出のバックを見たのはこれが最後になってしまった。
僕は日記を書き終わって眠ろうとした。貴重品の入ったザックは心配なので僕が寝てる隣において眠る事にした。デジカメもベルトから外さないと取れないようにして眠った。上記の日記にも書いたが、まだ完全に信用していたわけではなかった。
僕は眠った。
夕食時にもビールを勧められた僕はぐっすり寝入っていた。
そして眠った「ふり」をしていたアジャイが動き出した。
＞＞次ページ(vol.2 盗難された流離人)
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